変態から、電話が来た。

繊月をオープンしてわりとすぐ、その電話はかかってきた。

私はてっきり、ご予約のお電話かと思って、ドキドキしながらとびきり明るい声で電話を取った。

「はい!繊月齋藤でございます」

ぼそぼそと話す、男性の声がした

「今、してるんでるけど、いってもいいですか?」

「えっ?」

上手く聴き取れないのと、頭が追いつかないので、

「おそれいります、もう一度お願いします」

なんて言って、頑張って意図を読み取ろうとさえした。

やっと頭が追いついて、意味がわかりショックだった。どんな思いで私が電話を出たのかなんて、この人には全く関係ない。

ただただ、私が擦り切れたように思えた。

少し落ち着いてから、高校からの友人二人に相談したら、こんな答えが返ってきた。

「お経か、稲川淳二流せば?」

「やしきたかじんとか、石原裕次郎とか、八代亜紀とかのムード歌謡流すとかどう?」

「不敵に笑うといいらしいよ」

「コーランがいいんじゃない?」

「バリ島のケチャもよさそうだよ」

次々と、アイデアを出してくれて、それがどれも、考えたら面白くて、落ち込んでいた気持ちが一気に吹き飛んだ。

森沢明夫さんの「水曜日の手紙」に、こんな一文がある。

「人生をいちいち深刻に考えている奴は深刻な人生を送ることになるわけだし、人生なんて遊びだと思って楽しく考えていたら、人生そのものが遊びになる」

変態からの電話を、友人たちが笑いに変えてくれたおかげで、私は救われた。

嫌なことを、嫌なままで保存せず、ユーモアという味付けをしてから保存する。それだけで、後の気持ちが全然違う。今、変態からの電話を思い出すときに浮かぶ感情は、軽やかだ。

擦り減ったままで放っておいたら、思い出すのも嫌になっていたかもしれない。

なので、友人たちに本当に感謝している。いつもありがとう。悩んだときにくれる、自分では考えつかないようなアイデアに、たくさん救われてる。私も咄嗟にそういうユーモアが出せる人になりたいな。

余談ですが。

変態とか、営業とかの電話ばかりで、嫌になっているときにかかってくる電話。「ああ、多分また変態か営業からだよな」と思って出ると、たいていお客様からの電話で、いつもびっくりして焦っています。笑 常にフラットでいなければね。