冬の花火

冬の花火

「千曲川沿い全域で、花火を上げるっていう計画があるだいな(あるんだよ)。ほら、おっとし(一昨年)台風19号があっつらい(あったでしょ)?その関係で。来週やるから。おい(お前)はアナウンス手伝いできるかい?」 父から、急に言われた。いつものごとく、早口の方言混じりで。急な無茶振りもいつものことだ。私はもう、驚かない。 父は、お祭りわっしょい男だ。イベントごととなると、めちゃくちゃ張り切る。父の友人もしかり。...
笑い飛ばせ

笑い飛ばせ

変態から、電話が来た。 繊月をオープンしてわりとすぐ、その電話はかかってきた。 私はてっきり、ご予約のお電話かと思って、ドキドキしながらとびきり明るい声で電話を取った。 「はい!繊月齋藤でございます」 ぼそぼそと話す、男性の声がした 「今、してるんでるけど、いってもいいですか?」 「えっ?」 上手く聴き取れないのと、頭が追いつかないので、 「おそれいります、もう一度お願いします」 なんて言って、頑張って意図を読み取ろうとさえした。...
幸せの秘儀

幸せの秘儀

最近知り合った、友人が二人いる。彼女たちと一緒にご飯を食べに行くと、 「ここ、来たかったんだ。来れて嬉しい!幸せ!」 「これ美味しい!幸せ!」 「今日もいい日だなぁ」 「ほんとついてるよね!私たち!」 こんな言葉が自然と飛び交う。本当にさらりと。これは挨拶なのかってくらいの自然さで。 最初は、びっくりした。けれど、二人があまりにも幸せそうなので、私もこっそり真似してみた。人前で言うのはなぜか少し恥ずかしかったので、家で一人こっそりと。 朝、顔を洗って化粧水の後でオイルを付けている。monte...
ピヨだよ。え?ピヨ?

ピヨだよ。え?ピヨ?

実家でトンビを保護している。名前はぴーちゃん。 1年前くらいに、弟が拾ってきた。車とぶつかって怪我をして動けなくなっていたらしい。獣医さんに見せて、治療してもらった後は、自然に戻れるまで保護をすることに。 最初は網で覆った場所に入っていたが、そろそろ自然に戻そうという話になり、牧場の隣の森に放した。飛んでいくかと思ったけれど、ぴーちゃんは飛ばなかった。...
おもしろいことの話をしよう。

おもしろいことの話をしよう。

うつくしいものの話をしよう。いつからだろう。ふと気がつくと、うつくしいということばを、ためらわず口にすることを、誰もしなくなった。そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。うつくしいものをうつくしいと言おう。 長田弘「世界はうつくしいと」より抜粋 突然ですが、うちの甥っ子が可愛い。こんな可愛い生き物が、この世にいるのかってくらい可愛い。 もうすぐ2歳になる彼。言葉を覚えて、意思疎通が徐々にできるようになってきた。 我が家に遊びに来て、私の夫と遊んでいる時、お腹から絞り出すような大声で叫んだ。 「っおもしろいっっっっっ!!!」...
あの夏

あの夏

残暑と言うにはあまりにも暑い京都の、日が暮れて間もない青い空気の中に私はいた。部活の帰り道、同回生とキャンパス内を自転車置き場に向かって歩いているところだった。並木から聴こえる、虫の声がうるさかった。 父からの着信。 「おじいちゃんが亡くなったから帰って来い」 覚悟はなんとなくできていた。お盆に帰省したとき、私はおじいちゃんの病室に泊まった。夜中に酸素を自分で外してしまうので、付け直すためだ。おじいちゃんが入院してからは、家族が毎日交代で泊まっていた。 「おじいちゃん、酸素外すと苦しいから取っちゃダメだよ」 と言うと、...